アリオス株式会社 ダイヤモンド合成用プラズマCVD装置

ダイヤモンド合成用プラズマCVD装置

はじめに

ダイヤモンドは、他の半導体材料と比べて非常に優れた物性やユニークな特性を有しているワイドバンドギャップ半導体であり、次世代パワーデバイスや量子コンピュータなどへの応用が期待されています。
現在、それらのダイヤモンドデバイスは高温高圧法 (HPHT) で合成されたダイヤモンド基板上にプラズマ化学気相堆積法 (PECVD) を用いてホモエピタキシャル成長を行うことで作製されます。 PECVDを行うためには、マイクロ波 を使ったプラズマCVD方式が一般的ですが、プラズマへのマイクロ波の給電方法の違いにより幾つかの方法が実用化されています。 いずれもマイクロ波導入窓部分に電界集中によるプラズマが発生しないよう工夫されていますが、弊社はこの点に着目し、窓を使わずマイクロ波をプラズマに給電する新しいタイプのマイクロ波プラズマCVD装置を開発し、製品化しました。
単結晶ダイヤモンド合成用CVD装置

新しい直接給電方式

直接給電方式ダイヤモンドプラズマCVD装置概要 実際に作成したダイヤモンドプラズマCVD装置
図1:直接給電方式プラズマCVD装置概要図2:直接給電方式プラズマCVD装置

弊社は、半導体グレードのダイヤモンド合成に特化し、現在入手可能な単結晶ダイヤモンド基板のサイズ (数mmほど) に合わせて小さな基板ホルダーとしてチャンバーも小型化して開発を進めることとしました。 また窓を使用したマイクロ波導入は、この近辺で放電が生じやすく扱いに熟練や経験を要します。これを回避する方法として考えたのが基板ホルダーに直接給電する方法です。 導波管から同軸変換し、その先端をアンテナとしてチャンバー内にマイクロ波を導入します。アンテナは先端に電界が集中するよう 1/4λ の長さとし、ここを試料ホルダーとして試料に直接マイクロ波を給電します。 チャンバーは球形にして、その中心に試料を置く構造として、さらに電界を集中させる工夫をしました。すなわち基板ホルダーから放射されたマイクロ波電力は、チャンバー球面で反射され、再び焦点位置である基板ホルダーに戻ります。

その結果、試料近傍にのみ高密度のプラズマを発生させることに成功しました。 この装置の構造を図1に、実際に作成したプラズマCVD装置を図2に示します。
直接給電方式と球形チャンバーの組み合わせにより、結果的に最小構成では AC 100V コンセント接続でダイヤモンド合成に必要な全ての電力をまかなえるほどの省電力装置を実現できました。
通常プラズマを発生させプラズマを基板近傍に安定状態で維持するには、ノウハウが必要で簡単ではありません。 弊社が開発した装置では簡単にプラズマ放電がスタートし、常に基板近傍に安定的に位置する他、ガス圧力の範囲が広く 5kPa~30kPa 程度まで安定した動作をするなど、操作が極めて簡単です。

マルチチャンバー対応

半導体対応では p型 と n型 を別々のチャンバーで作成するなどクロスコンタミに対応する必要があります。 弊社は直接給電方式プラズマCVD装置の発展型としてマルチチャンバー構成の装置開発を行いました。

マルチチャンバー化させたダイヤモンド装置
図3:マルチチャンバー化させた本機

高速成長への試み

ハイパワー化させたダイヤモンド装置 ダイヤモンド装置で基板ホルダー近傍のみに広がるプラズマの様子
図4:ハイパワー化させた本機図5:基板ホルダー近傍のみに広がるプラズマの様子

当初開発した装置は、マイクロ波電力 200W、7~8kPa の圧力、CH 4 濃度 1% の条件下で (111) 基板を用いて最大 1~2μm/h の成長速度が得られました。 さらに成長速度を上げる方法の一つとして、供給するマイクロ波電力を増加させることを試みました。しかし 200W 以上の電力投入では基板の温度が 1000℃ を大きく超え、空冷方式では冷却が難しいと分かりました。 そこで、大電力対応ではチャンバーと基板ホルダー部を水冷し、基板を冷却することで給電可能なマイクロ波電力をアップし、高速成長を狙った装置を開発しました。 この装置は、約 600W のマイクロ波を投入して (111) 基板で 10μm/h 以上の成長速度を達成しました。 その後、さらにパワーアップとメタン濃度、及び圧力の最適化を行い、37μm/hを達成しました。現在さらに高速成長を目指して研究開発を進めています。 一連の研究開発の一部は、JST A-STEPの助成を受けて行いました。

ホモエピタキシャルダイヤモンド(111)膜の成長速度
図6:ホモエピタキシャルダイヤモンド(111)膜の成長速度 金沢大学徳田先生ご提供

このように、プラズマの発生面積を絞り込むことで、少ないマイクロ波電力で高速成長が可能です。図5にプラズマプロセス中の基板ホルダーの様子を示します。

ダイヤモンド膜の評価

本装置で成膜した試料のカソ-ドルミネッセンスを 図6に示します。235nm 付近にエキシトン光と呼ばれる結晶性を示すピークが鋭く立ち上がり、良好な結晶性が得られていることを示しています。 SIMS 測定の結果、CVD膜中の水素、窒素、ホウ素は検出限界以下でした。

ダイヤモンド装置で、成膜されたダイヤモンド膜からのエキシトン光
図6:成膜されたダイヤモンド膜からのエキシトン光

まとめ

以上のように、省電力で小型の装置を開発できましたが、同時に基板の大型化に対応しにくい点が短所として挙げられます。 現在基板を大型化する為にチャンバーの大型化及び基板ホルダー (アンテナ) のサイズアップについて設計を進めています。また、さらに高速成長を目指して、大電力化にも取り組んでおります。
今後はさらに研究開発を進め、より良い装置を開発することでダイヤモンド研究の発展に貢献できれば幸いです。

※ 本開発の一部は、以下の助成を受けて、金沢大学の徳田准教授との共同研究として実施したものです。
JSTの A-STEP・FS シーズ顕在化 「CVD単結晶ダイヤモンド(111)自立基板の開発」(AS2211074B)
A-STEP・ハイリスク挑戦タイプ「半導体ダイヤモンドの開発」(AS2524083M)
【2019年6月 追記】
研究開発成果がA-STEP Webサイトに掲載されました。
「CVDダイヤモンドの高速成長技術と自立基板の開発」
http://www.jst.go.jp/a-step/seika/ind_AS2524083M.html

※ 本文は、ニューダイヤモンド誌(1) に掲載した論文を書き改めたものです。

参考及び引用文献

  1. 有屋田 修、徳田 規夫 "ダイヤモンド合成用プラズマ CVD装置" New Diamond №109,2013.