アリオス株式会社 ラングミュアプローブ(プラズマ診断)

ラングミュアプローブ

測定装置の構成

ラングミュアプローブ はプラズマのプラズマ電位、電子密度及びプラズマ密度を比較的簡単に測定できる測定方法です。
ラングミュアプローブの基本的な形状は、図1(a)に示すように導体を先端部だけ露出させた電極構造とします。外部からのノイズが問題となる場合やプラズマ室全体が絶縁物で覆われていて、参照電極となるべき部分がない場合などは、プローブの外にシールド電極を被せ、参照電極の代用とする場合もあります。
ラングミュアプローブ電極先端の形状例 ラングミュアプローブシステム構成
(a)電極先端の形状例(b)システム構成
図1:ラングミュアプローブ
プローブの先端形状は、図1 (a) の左のような円筒形状とするのが最も簡単ですが、右のように円盤を取り付ける方法も使われます。
この両者では測定の特性に違いが見られ、円筒形よりも円盤状の方が、指数関数領域と電子電流飽和領域との境界がはっきりと出ます。 これはおそらく、電圧を上げていったときの電子シースの表面積の変化に起因していると考えられます。
プローブは用途によってプラズマ源の出入位置の調整が可能であるように、X方向あるいはXY方向に移動可能な構造とします。 材質はプラズマ中に挿入しますので、一般には高融点金属が用いられます。 電気回路の構成を図1 (b) に示します。電源は、電流電圧とも正負いずれも可能な4象限電源が必要となります。 (当社ラングミュアプローブ用推奨電源) プラズマ電位が大きくないプラズマでは、±60V、0.5Aくらいから測定可能です。

-データの解析-

ラングミュアプローブの測定例

図3:ラングミュアプローブの測定例

プローブをプラズマへ挿入し、印加電圧を掃引してやると、図3のような電流電圧特性が得られます。
難しい話は抜きにして、データの解析方法をまとめます。 詳細は、参考文献1などを参照してください。 データはイオン電流飽和領域、電子電流が電圧に対し指数関数で変化する領域 (以下 指数関数領域)、電子電流飽和領域に分けて考えます。

浮遊電位

電流が 0 となる電圧が浮遊電位です。
イオンと電子の運動速度の違いから、プラズマが正の電圧にフローティングしていることを示しています。 プローブ電極にシールド電極を被せている場合は、実際の電圧よりも低い電圧が観測されることがあります。

プラズマ電位

浮遊電位よりプローブ電圧を浮遊電位より次第に高くしていくと、イオン電流は次第に減少し、やがてプローブに到達するのは電子電流だけとなります。 この境界の電圧をプラズマ電位又は空間電位と言います。

電子温度の算出

指数関数領域にある電流値I1 をとりその電流が、e倍 (約2.7倍) となる電圧の変化をΔVとすると、電子温度Te は以下で表わせます。
電子温度の算出
プロセス用プラズマ源の場合、数eVになります。指数関数領域では、位置によって電子温度に差が出ることがあります。これは電子エネルギーの分布がマクスウエル分布からずれていることを意味します。 電子エネルギー詳細な検討が必要な場合はこうした平気値を求めるような方法ではな く、EEDF のグラフを描く必要があります。

プラズマ密度の算出

上記で算出した電子温度 (eV)、飽和電子電流 Ies (mA) 及び電極の実効表面積 S (mm2) より、プラズマ密度 (cm-3) は、以下の式で算出します。(参考文献2より)
プラズマ密度の算出
プロセス用プラズマ源の場合、1015~20 m-3 程度の値が得られます。
マイクロ波イオン源 における測定例を図4 に示します。この例では、電子温度 3eV、プラズマ密度約 1016 cm-3 と算出されます。
変曲点が認識しやすいラングミュアプローブ測定例
図4:変曲点が認識しやすいラングミュアプローブ測定例

電子温度が高いプラズマの測定

プラズマ源下流 約50mm での発光が見られない位置での測定例を図5 に示します。

変曲点が認識しにくいラングミュアプローブ測定例
図5:変曲点が認識しにくいラングミュアプローブ測定例

飽和電子電流領域が判別しにくく、また電圧が上昇していることが分かります。この例では、飽和電子電流領域は 60V付近 15mAです。電子温度は約20eV、 プラズマ密度は 約 5×109 cm-3 と算出されます。 電子温度が高い場合は、それに伴い電子電流が飽和する電圧も上昇しますので、プローブ電圧も高い電圧が必要になります。

片対数目盛りグラフによる検討

電子電流飽和領域では電界により電流値が上昇しますが、この上昇が大きく指数関数領域との差が見いだせない場合があります。この場合は、片対数目盛のグラフを描くと変曲点が容易に見いだせることがあります。対数目盛では、指数関数領域の傾きそのものが電子温度を表します。

プローブ先端電極の大きさと形状について

電極はある程度の大きさがあった方が、良好な測定結果を得ることができるようです。小さいと、基部の絶縁物のチャージアップなどの影響を受けるようです。
指数関数領域から電子電流飽和領域に移行する点の肩がはっきり出ない場合は、電極面積を大きくすることを検討してみて下さい。

イオン源から取り出せるイオン電流とイオン飽和電流との関係

一般に イオン源から取り出せるイオン電流 < イオン飽和電流 となります。
具体的な数値は、引出し電極の形状、位置、加速電圧により変わります。またイオン飽和電流以上の電流を取り出すと、プラズマが不安定となり、放電維持できない場合も生じます。

-測定の誤差要因-

列挙しておきます。対策方法はケースバイケースです。解決できない場合も多々あります。

  1. 電極の実表面積と、実効表面積の差
    端効果により差が生じます。平板型とすると差が少なくなります。
  2. 電極の加熱による熱電子放出
    温度が上昇する前に、測定するプローブの冷却などの対策。
  3. プローブ挿入によるプラズマ状態の変化
    プローブの微細化などや材質によって軽減する場合があります。
  4. プローブに対する成膜、プラズマ暴露による表面改質
    プローブ材質、温度管理など。

データ処理ソフトご紹介

フリーソフト "SA"

表1:SAの入力データ例
フリーソフトSAの入力データ例
ラングミュアプローブのデータを処理するのに便利なソフトがあります。"SA" というフリーソフトです。
入力データは、電圧(カンマ)電流(改行) というカンマ区切り形式とし、拡張子を dat というファイル名で用意します。データの電圧は等間隔である必要があります。表1 にデータ例をあげます。SAを起動してデータファイルを入力すれば、semi-log グラフの傾きから、電子温度 kTe、プラズマ密度 n、浮遊電位 Vf、プラズマ電位 Vsなどを自動的に算出してくれます。
ブレークダウンを起こすなどデータの変曲点が複数ある場合には、手動でグラフの傾きを指示するなどの必要がありますが、それでもデータ処理を格段に簡単にしてくれる便利なソフトです。詳細については、"SA"のホームページをご覧下さい。

LabView 標準形式データから SA用ファイルへのデータ変換ツール

LabView の標準形式のデータ出力は、ヘッダー付、データ番号付のタブ区切りで出力されます。
このファイルから、SA用ファイルを出力するソフト lvm2dat2.exe を用意しました。 急造した手抜きソフトですので取扱説明をご覧頂き、覚悟の上お使い下さい。
ダウンロード 38.2KB

電子エネルギー分布関数(EEDF)

電子エネルギー分布関数のグラフ

図6:EEDF グラフ

ラングミュアプローブで測定される V-I特性の指数領域の傾きから、直接的に電子温度すなわち、電子のエネルギーを求めることができますが、実際の電子のエネルギーは分布を持っていますので、測定される電子温度はその平均ということになります。
EEDFは、この電子温度を全体の平均ではなく、エネルギーごとにどれだけあるかを示すデータです。EEDFは一般に、図6に示すように分布を持っています。 一般にこれは Maxwell 分布に似た分布となりますが、電界を印加して電子を加速しているため、一般に Maxwell 分布から外れ、高エネルギー側にテールが出ます。プラズマを維持するには、原子の解離エネルギー以上のエネルギーを持つ電子が必要です。これは一般に5~25eV程度の価になります。一方、シリコンプロセスなどでは微細化により電子によるダメージは極力避けたいわけで、特に成膜などでは例えば 2-3eV 以上のエネルギーをもつ電子は嫌われる傾向にあります。 この相反する二つのことを同時に両立させるためには、基板より離れたところでプラズマを作り、基板付近では高速の電子がないように電界強度を下げることなどの工夫によってこれを実現することになります。

9×9 マルチポイントラングミュアプローブ

9×9 マルチポイントラングミュアプローブ

図8: 9×9 マルチポイントラングミュアプローブ

プラズマパラメータの分布を得るためには、ラングミュアプローブ LPM100シリーズのような可動型のプローブをモーター駆動し、直線あるいは面を走査していくことが考えられますが、ターゲットあるいはサンプル上の分布を得るには、面に電極を多数配置する構造も考えられます。
この大規模なものを紹介します。装置の構造を図(a)に示します。9×9=81個の電極を面に配置し、全ての配線を電流導入端子で大気側に引き出します。(b)は、全体のシステム図です。電極からの配線は、大気側に設置したリレーを多数配置したコネクションボックスで一つ一つ切り替えて、V-I特性を測定し、面分布を得ます。 ソフトウエアはマルチポイントラングミュアプローブ処理ソフトウエア LMP-100SCANを用います。この方法はプローブの移動を伴わないので、高速に面分布を得ることができる点で優れています。(c)は、このシステムで得られたパラメータ分布を表示した3Dグラフです。

LMP-100SCAN

弊社 マルチポイントラングミュアプローブの 処理ソフトウエア LMP-100SCAN電子エネルギー分布関数 (EEDF) が測定できるようになりました。
各ユニットを組み合わせることにより、ウエハー近傍の EEDFの面分布を得ることが可能です。EEDFの算出には、Druyvestein Method を用いています。ノイズの影響を受けやすい同方法の欠点を、信号成分を損なわない信号処理技術でカバーしました。 またLMP-100SCANは、画像処理技術を応用した極めてノイズに強い直線近似技術と接線法の組み合わせにより、失敗の少ないプラズマ密度算出能力を持っています。
EEDF測定例

図7:LMP-1000SCAN による EEDF測定例


弊社では ラングミュアプローブ ご購入までの流れ でご紹介しておりますように、お手持ちの装置仕様や取付ポートにあわせ設計致します。 貸出やデモ、測定サービス (有償) も承っております。ぜひ一度 お問い合わせ (042-546-4811) 下さい。

参考文献

関連情報

当社製品ページ
マルチラングミュアプローブ測定システム
シングルラングミュアプローブ
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ラングミュアプローブ Q&A