アリオス株式会社 真空の常識と非常識

真空の常識と非常識

圧力の差はたったの1気圧、されど1気圧

真空チャンバーの内外の差は、超高真空であってもたったの1気圧しかありません。
しかし、1気圧だといってバカにはできません。1気圧の差では、1cm2に約1kgの重しを乗せたのと同じだけの力が掛かります。直径40cmのフランジなら、その力は1トンにもなります。薄い板では曲がってしまいます。
円筒や球体の場合は構造的に力が分散しますので、ステンレスの場合3~4mmの厚さでも変形することはありません。しかし、角チャンバーの場合は平板に何トンもの重しを乗せたのと同じことになりますので、板を厚くするとともに、リブを入れないと変形します。そのため、角型チャンバーは円筒形や球体と比較して重くなり、値段も高くなります。

真空漏れ検査(リークチェック)

ヘリウムリークデテクターがある場合は、これを使うのが便利です。この装置は、真空排気装置とヘリウムのみを計測する質量分析器を組み合わせた装置です。
検査するチャンバーに取り付け、チャンバー内部を真空にします。この状態でチャンバーにヘリウムガスを吹き付け、リーク箇所があるとそこからヘリウムガスがチャンバー内部に入り、この装置により検知されリーク量が表示されます。ヘリウムリークデテクターがない場合は、下記のような方法でリーク箇所を特定します。

リークが発生した場合は、リーク量で調査方法が異なります。
電離真空計が入らないぐらいリーク量が多い場合は、目で見ることと音で確認します。シューとかスーとか空気が入る音がすることが多いです。
電離真空計が入るぐらいなら、アルコールを使う方法があります。アルコールをリークしていると思われる箇所に吹きかけます。リーク箇所を液体が塞いだ瞬間は圧力が下がりますが、その直後に真空容器に入りますので、瞬間的に蒸発膨張し、圧力が上がります。この様子は、電離真空計で確認できます。
漏れ箇所がシール面ならば磨き上げますが、溶接面ならば溶接で盛るか、全てを作り直すか、あるいは真空用の接着剤などで埋めるか、といった選択になります。接着剤を使う方法はやり直しができませんので、最後の手段となりますし、ベーキングを必要とする超高真空では採用できない方法です。

リークは材料で発生することもあります。一般に入手できる材料では、引き抜き方向に微細な穴が開いていることがあります。ですからフランジを丸材から輪切りにした材料で作ると、この穴がリークの原因になります。必ず平板材から切り出します。また、真空装置に扱いの慣れていない場合は、試料やチャンバー内部からの脱ガスをリークと見誤る場合があります。
およそ10-2Paよりも近い圧力を得ようとする場合、試料を素手で触ることは厳禁ですし、脱脂、脱水をきちんとやらなければなりません。場合によっては、試料の汚れによって装置全体を汚損してしまう場合もあります。1気圧を100%とすれば、10-2Paは、約0.1ppmに相当します。1気圧の世界ではわずかな量であっても、真空の世界で気体になれば真空度を支配するほどの量になります。

ICFフランジのエッジを潰してしまったとき

ICFフランジはエッジがガスケットに食い込むことにより、真空封止します。このエッジはなかなか微妙で、使用状況により徐々に潰れてきたり、あるいは硬いものに当ててしまったりして損傷してしまう場合があります。
こうした時IPDガスケットというものがあり、これを使うとエッジを使うことなく真空封止できます。IPDガスケットは、エッジ外周の斜辺を使うガスケットです。ですから、エッジの損傷以外にも普通のガスケットにおいて、内径が問題になる時にも使用できます。
また、真空ハンドブックという参考書籍があり、フランジの寸法や真空に関する一般的な項目が一冊にまとめられています。

真鍮(しんちゅう、黄銅)

家庭用品などでよく使われている黄銅ですが、高真空装置内に持ち込む場合には注意が必要です。
理由は、黄銅に含まれる亜鉛の蒸気圧が非常に高いことです。高真空装置内の黄銅の部品の温度が上昇すると、黄銅の中から亜鉛が飛び出して真空装置内を汚染し、場合によっては装置内が真っ白になるほどになります。
気をつけたいのは、ネジ類です。高真空装置内では、通常ステンレス製のネジを使用しますが、電気製品などでは黄銅にニッケルメッキしたネジを使います。この両者は見分けにくいのです。高真空装置内のネジは良く確認してから使用するようにしましょう。 ネジ以外にも、例えばワイヤーカット加工などの放電加工では、真鍮の電極が使われることが多く、この真鍮が加工部分に残留し、問題になることがあります。
但し、真空でも1Pa~大気圧程度なら問題なく使用できます。ロータリーポンプなどの粗びきポンプの配管には、黄銅が使われている場合があります。