アリオス株式会社 マイクロ波

マイクロ波

はじめにご注意 -電子レンジの改造について-

このページを読んで頂いた方から、電子レンジを改造して実験してみたいというお問い合わせをよく頂きます。当社では改造を承っておりませんし、推奨もしません。それでも改造しようとするならば、下記の点を十分にご留意下さい。
当然のことですが、電子レンジの改造は非常に危険なことであり、事故に関しては誰も責任を負ってくれないどころか、あなた自身が責任を負うことになります。その点を充分に認識した上で改造して下さい。

内部には高電圧があり、電源を切ってもコンデンサに充電されている場合があります。

マイクロ波はマグネトロンを使って発生させます。マグネトロンを駆動するには5kV近い電圧が必要です。
電源を切った状態でも内部のコンデンサにこの高電圧が残っている場合があり、電流も大きいので死亡事故に繋がる恐れがあります。感電しないよう充分にご注意下さい。 配線は、接地が省かれていることにも留意して下さい。マグネトロンを取り出して使用する場合、接地線を接続することが必要になります。

マイクロ波の遮蔽は専門知識が必要です。

電子レンジのドアのように押しつけるだけで遮蔽できるなんて絶対に考えないで下さい。
電子レンジのドアは、チョーク構造という特殊な方法で漏洩を止めています。素人考えで似たようなことをやっても上手くいきません。アルミホイルで覆うというのも全くナンセンスです。導電性のテープもほとんど役に立ちません。 外側を全て金属で覆い、接続部の全周を電気的に確実な接続方法(溶接、ハンダ付け、ロー付け、ネジ止め)で接続することが必要です。それでも漏れるという、あたかも電磁気学の法則に反するようなことが起きます。 また、遮断条件以下の穴を開けても漏れます。それぞれには物理法則に沿ったきちんとした理由があります。遮蔽を安易に考えないで下さい。また、実験中のマイクロ波の漏れの測定は必ず必要です。
マイクロ波漏洩の模式図や表面電流による漏洩についてはマイクロ波の漏洩防止をお読み下さい。

2.45GHz

工業用マイクロ波電源の周波数です。この周波数は、電子レンジと同じ周波数です。この周波数帯は、ISM バンドと呼ばれ、通信などに影響を与えない周波数帯であり、漏洩の基準が緩和されています。マイクロ波帯のISMバンドは、他に915MHz(日本では認可されていない)、5.8GHzなどの周波数があります。 また、この周波数帯はWi-Fi、Bluetooth、ZigBeeなどの近距離デジタル通信にも使われています。
ISMバンドについての詳細はRFプラズマに掲載しています。また、電子レンジや高周波のちょっとしたお話ハイテクの電子レンジ?もぜひご覧下さい。

家庭用電子レンジとの差

家庭用電子レンジと、プラズマ用マイクロ波電源との違いは、断続か連続かという違いがあります。

家庭用電子レンジの出力は、300~1kW、50/60Hzで断続しています。これに対し、プラズマ用マイクロ波電源では通常連続発振です。
継続出力でもプラズマを作ることができますし、用途によっては断続出力の方がベターな場合もあります。成膜などでは、継続出力でないと成膜できない場合もあります。
家庭用電子レンジは数万円、マイクロ波電源は100万円以上です。予算に限りのある研究などでは、家庭用電子レンジによるマイクロ波給電を考慮されても良いかもしれません。但し、自己責任でお願いします。

値段の差は、大量生産vs少量生産の差も大きいのですが、それ以外にも大きな性能の差があります。

マイクロ波は危険

いったいどれだけマイクロ波を浴びれば健康被害があるのか?という数値は諸説色々あります。人間が携帯電話のような高電界強度のマイクロ波帯の発生装置を頭部に接触させて生活するようになってから、十数年。ガンなどの晩発性影響を議論するには短すぎます。
法律では、電子レンジの漏洩については、電気安全保安法により電力密度で1mW/cm2以下、電波法施行規則には5mW/cm2以下という基準があります。法律で縛るには根拠が必要であろうと考えれば、このあたりが基準になります。
しかしながら、マイクロ波を用いた実験では、予期せぬ事故により大電力マイクロ波を浴びることも考えられます。この場合は、熱作用と呼ばれる障害が起きることがあります。特に危険なのは、血流のない角膜など目の周辺です。 角膜などが白濁を起こします(白内障と同様の症状)と、元に戻りません。様々な条件を考慮すると、10mW/cm2でも熱作用の危険性があると考えられます。
漏洩が予想される実験を行う場合、発生源から離れていることは有効です。たとえば、100Wのマイクロ波電力が漏洩したとして、これが空間に一様に放射されたと考えると、1m離れた位置では1mW/cm2となり、比較的安全と考えられるレベルまで電力密度は低下します。

電子レンジからはどれだけ漏れているの?

弊社で測定した限りでは、全ての製品が5mW/cm2以下です。
電子レンジのドアは、巧妙な方法でマイクロ波を閉じ込めています。実は、電子レンジよりも携帯電話や無線LANの方が、周囲への電力放射が大きいです。

電磁波の単位換算

空間のインピーダンスは、約377Ωですので、空間における電力密度、電界強度、磁界強度及び磁束密度の換算は以下のようになります。

電力密度 ( W / m2 )=( 電界強度 ( V / m ) )2 / 377 = 377 × (磁束密度 (T) / 4π×10-7 ) 2

マイクロ波の漏洩測定器

弊社では、通常は図1に示すような校正された測定器を使用してマイクロ波の漏洩チェックしています。

マイクロ波漏洩検知器簡易的なマイクロ波漏洩検知器
図1:マイクロ波漏洩検知器(左)、簡易的なマイクロ波漏洩検知器(右)

ネット通販などで1万円前後で入手できるような簡易的な測定器を使うこともあります。図1の右はその例です。
この測定器と精密で高価な測定器の表示の違いは、この簡易的な測定器の方が、数値が高く出ることです。 例えば、校正された測定器が1mW/cm2を表示していたとすると、同じ位置で2~4mW/cm2といった表示になります。 測定のレスポンスや測定方法が違うので、一概に数倍の数値が表示されるとは断定できませんが、いずれにしても少なめに表示されることはほとんどないので、安全サイドに振ってあるという点では使える測定器かなと思います。 但し、大きめに表示されるということをご存じでないと、トラブルが起きる可能性はあります。

一般のご家庭で電子レンジの近くで、実際には電気用品安全法技術基準より小さい漏洩なのに、超えていると誤認識を起こす可能性があります。 また、Wi-Fiなどの無線通信でも電子レンジと同じ2.45GHzを使っており、このピークパワーは電気用品安全法技術基準の電子レンジの基準よりも大きくなっています。
図1の右の測定器は、Wi-Fiに対してはその出力がパルス的な発振であるためか、感度が低い印象を受けます。また、この測定器は様々な名前で売られています。『CEM DT-2G』との表記がありますが、販売者によっては全く別の型番が付けられていることがあります。 実際にそうした「違う型番で同じ形のもの」で入手した範囲では、ほとんどが同じものでした。
トリフィールドメーターと呼ばれる同様の安価な測定器でも、同様に大きめの値が表示されますが、このメーターは広域帯ですので、マイクロ波以外の電界や電磁場にも敏感に反応するため、マイクロ波のみの漏洩検知には不向きです。
なお、いずれも弊社の製品ではございませんので、保証などは致しかねます。

導波管

2.45GHz用導波管フランジ
図2:2.45GHz用導波管フランジ WRT-2(左)とWRI-22(右)
マイクロ波を輸送するには、通常は矩形導波管を使います。
製品ページ:導波管部品
導波管はフランジに接続され、融通が効きませんので取り回しが大変です。ある程度曲げられるように、ベローズ構造を用いた可とう型導波管も市販されています。また、同軸型ケーブルも使われますが、減衰が多くケーブルが発熱しますので200W以下の使用が推奨されます。
同軸管も使われます。こちらは導波管よりも小型化できますが、リジッドですので、導波管と同様の扱いにくさがあります。
導波管は現在2種類のものがよく使われています。このフランジ形状を図2に示します。DXFファイルはこちらです。
大きい方がWRI-22(WRJ-2)規格、小さい方がWRT-2(WST-AD)規格でこちらは東芝規格などとも呼ばれています。矩形導波管ではマイクロ波は通常、基本モードであるTE10モードで伝搬させます。
マイクロ波用導波管は周波数によって横幅が決まってしまいますが、TEL10モードを維持したまま導波管の幅を広げることが可能です。 詳細は導波管の幅を広げるをご覧下さい。

遮断波長

導波管には遮断波長が存在します。これ以上の長さの波長の電磁波は伝搬できないという限界です。

λc=2a a:導波管の長辺方向の長さ

遮断波長以下の周波数の波を通さないことから、導波管は高域通過型フィルターであるといえます。
規格導波管の遮断波長は、使用周波数帯の1.5倍ぐらいになっているようです。遮断波長ぎりぎりの幅では、損失が指数的に増大します。

導波管内の波長

管内波長は次の式でもとめられます。

導波管内の波長 λg : 導波管内の波長
λ : 自由空間波長 c/f (光速/周波数)
λc : 遮断波長
導波管内では波長は延びます。 これは同軸ケーブルで波長が短縮するのと逆です。
波長が延びるということは、速度が速くなることを意味します。 この波長から計算される速度を位相速度(phase velocity)と呼びます。
位相速度は自由空間よりも速度が大きくなるわけですから、光速を超えるということになります。 しかしながら、これは信号の速度が光速を超えることにはなりません。 詳細は群速度(group speed)について参照して下さい。
管内波長 矩形導波管内の波長

マイクロ波の解説本

マイクロ波について用語集でも簡単に説明していますが、解説書は最近非常に少ないです。 1950年代までに基礎的な研究は終了してしまっているからでしょう。
日本で出版されている解説書のいくつかは「edit by R.C Hansen et.al "Microwave Scanning Antennas" Academic Press 1966」から多く引用しているようです。 この本の中で使われている図や式が、多くの文献で引用されています。わかりやすい記述ですが、残念ながら絶版です。 大学の図書館なんでは書庫の奥の方に寝ている場合があります。
うんちくになりますが、日本語で書かれてた解説書は難解な本が多いように思います。 英語が苦手な私でさえ、英語の方が分かりやすいと思うことがしばしばあります。電気回路関係は特にその感が強いです。

それでも日本語の解説書

英語の解説書が分かりやすいと書いても、基礎知識がない方には難解でしょう。手持ちの参考書から入門用を何冊か挙げておきます。
申し訳ございませんが、再版の有無など確認しておりません。

  • 清水 俊之、三原 義男 共著 "マイクロ波工学" 1967年 東海大学出版会
    導波管内の電磁場の説明及び、式の導出がなかなか詳細です。電磁気学の基礎知識編といったところでしょうか。
    数学が苦手な方は、これだけでうんざりするかも。
  • 岡田 文明 著 "マイクロ波工学基礎と応用" 1993年 学献社
    どちらかというと電磁気学の解説は少なく、アンテナのデザインなどの説明が多いです。ただプラズマへの電力供給は、後述するようにアンテナの解説がそのまま適用されるわけではないことに注意が必要です。
  • 阿部 英太郎 著 "マイクロ波技術" 1979年 東京大学出版会
    教科書としては、なかなか良いまとまりがあります。
    ページ数が少ないので、とりあえず読み通せるところも魅力

これらの本につきましては、弊社で扱っているわけではありません。各出版社にお問い合わせ下さい。また、コピーなどのご依頼は著作権に抵触しますのでお断りします。
真空・プラズマに関するオススメの参考書は真空とプラズマに関する参考書籍にご紹介しております。

マイクロ波電源の構成例
図3:マイクロ波電源の構成例

マイクロ波立体回路の構成

立体回路は一般的に右の図3のように構成されます。
スリースタブの先に負荷が接続されます。アイソレータ、パワーメーター及び、スリースタブチューナーはなくても、プラズマを作ることはできます。
弊社でも導波管部品スリースタブチューナーを取扱しております。ご相談下さい。

発振器

マイクロ波を発生させる部分です。
2.45GHzではマグネトロンという真空管を使う方式と半導体で校正されるソリッドステート電源の2つがあります。
マグネトロンは2極管です。アノード電流とマイクロ波出力がほぼ比例しており、アノード電流を制御することによって出力調整します。 アノード電流とマイクロ波出力の例を図4に示します。

マグネトロンのアノード電流と出力電力の関係の例
図4:マグネトロンのアノード電流と出力電力の関係の例

マグネトロンは電子レンジでも使われています。効率は60~70%であり、残りは熱になりますのでファンなどによる冷却は必ず必要です。
なお、マグネトロンには5kV近い高電圧が印加されていますので、動作中及び動作後しばらくは触らないで下さい。メンテナンスを必要とするときは、各メーカーの指示に従って下さい。

ソリッドステート電源

真空管を使わずに半導体で構成されたマイクロ波電源です。半導体式マイクロ波電源という言い方をする場合もあります。
現在マイクロ波電源は、マグネトロン真空管を発振管として用いた形式が主流です。当社でもマグネトロン方式が出荷台数の多くを占めています。これはコスト面から、ソリッドステート電源がまだ高価であり、真空管のほうが安価であったからです。 10年ほど前から、半導体で構成された電源が出回るようになりましたが、その当時はきわめて高価でした。このことは弊社資料館でも少し触れていますが、2005年時点でもマグネトロン方式の3倍ぐらいの価格であったと記憶しています。
現在2.45GHz 200W以下といった比較的小電力であれば、価格の差はほとんどなくなってきています。そんな状況ですので、マグネトロン電源で色々悩まれている方は、ソリッドステート型を検討候補に入れてみてはいかがでしょうか。
そこで各種マイクロ波電源の特徴でもまとめていますが、ここではソリッドステート型マイクロ波電源のメリットとデメリットを挙げてみたいと思います。

 メリット 
  • 周波数安定度が高い
    マグネトロンによるマイクロ波発振の周波数スペクトルは広範囲にわたり、かつ変動します。変動要因は発振電力、反射電力、温度、経年劣化と様々です。
    マイクロ波電力応用を考える場合、共振回路を構成し電界強度をアップすることが良く行われます。スリースタブチューナーも見方を変えると、スリースタブチューナーと負荷との間で共振回路を構成していると考えることができます。 このような共振回路において、元の周波数がブロードかつ変動してしまうと、Qを大きくすることができず、結果的に電界強度を上げることはできません。
    当社のプラズマ源なども共振回路を構成しているものがありますが、マグネトロン電源を使った場合、この弊害があります。
    マグネトロン方式のドリフトを含む周波数占有帯域幅は約4MHz、これに対しソリッドステート電源の場合は100Hz程度と数十分の1に抑えることが可能です。 そのため、ソリッドステートマイクロ波電源との組合せでも述べています通り、Qの高い共振器を組み合わせることにより非常に高い電界強度を得ることが可能です。
    このように周波数安定度は、数字の問題だけでなくプロセスに直接的に効きます。
  • 出力安定度が高い
    マグネトロンの場合、出力電力を絞っていくと出力電力が不安定になり、パルス的な変動が現れます。マグネトロンの定格電力に対して、20%以下に出力電力を抑えた場合などに、この不安定性は顕著になります。
    ソリッドステート型の場合、出力リップルは全出力電力範囲にわたり、0.1%以下に抑えることが可能です。
  • 周波数が可変できる
    これによって、変調やパルス駆動も容易に実現できます。また、周波数可変は自動チューニングにも応用可能です。
    従来マイクロ波電源においてインピーダンスマッチングは機械的に動かす方法が主流でした。スリースタブチューナ、EHチューナなどがそれにあたります。
    ソリッドステート式の場合、周波数が可変できますので周波数をずらすことにより、マッチングを取ることができます。機械的にマッチングを粗調しておき、ドリフト分を周波数で追従させればモータなどを使わず、マイコンとわずかな部品だけで自動追従が可能になります。
    マイクロ波電源の自動マッチング装置は大型で高価ですが、ソリッドステート電源では使わないで済む可能性があります。
 デメリット 
  • 効率が悪い
    ソリッドステート型マイクロ波電源の入力電力に対する効率は 40%以下です。これは電力素子のスイッチングロスが大きいためであると考えられます。今後高速素子の性能が良くなるに従い、効率はアップすると考えられますが、現在は電力効率を重視する用途には使えません。

当社では現在、915MHz 300W、2.45GHz 200W、5.8GHz 100Wの3機種についてソリッドステート電源の開発を進めております。価格的にはマグネトロン式と対抗できるよう努力中です。
また、プラズマパラメータからのフィードバックなど当社のノウハウを余すことなく注ぎ込み、プラズマ用電源としての機能に特化していることは、当社独自の価格以外のメリットとしてあげることができます。
ソリッドステート型マイクロ波電源をお考えでしたら、是非弊社に(も)ご相談ください。

スリースタブチューナー

負荷とのマッチング(整合)に使われます。マッチングはインピーダンスを調整しているというより、共振長を調整しているという側面も併せ持ちます。
スリースタブチューナとは3本の調整棒を導波管に出し入れするタイプのマイクロ波整合器です。同軸タイプもありますが、こちらは外部導体に接続された棒を中心導体に近づける構造になっています。 それぞれの棒の調整の順番をお客様によく質問されますが、調整の順番はないと考えていただいて結構です。この3本に優先順位や、こうならば1番のものを調整するといった決まった規則性もありません。
調整方法について、少し詳細に説明してみます。調整にはマイクロ波パワーメーターが必要です。調整方法はアイソレータを装着している場合と、していない場合で少し異なります。
アイソレータを装着している場合は、反射電力が最小となるように、この3本をまんべんなく調整します。一つを動かすと、他の2本の最適位置もずれます。 また、負荷がプラズマのように非線形なインピーダンスを持っている場合は、チューニングポイントそのものがずれてきます。ですから、3本を調整して追い込んでいきます。
アイソレータを装着しておらず、さらに反射波が大きい場合の調整方法は、マイクロ波の反射波の動きを理解しておく必要があります。
アイソレータがない場合は、発振器からのマイクロ波電力は、スリースタブや負荷で反射し発振器へ戻り、一部はマグネトロンに吸収されますが、それ以外は再び入射波として出力されます。 つまり発振器とスリースタブ、あるいは発振器と負荷との間をマイクロ波電力が何度も往復します。そのため、発振器から出力された電力よりも大きい電力がパワーメーターで観測されます。
スリースタブの棒が挿入されていると、そこでインピーダンス成分が発生し不連続点となりますので、反射が生じます。 この反射が生じた時点でスリースタブを調整すると、スリースタブでの反射成分がパワーメータに出てくるため、ただ単に反射成分を減らそうと動かすとスリースタブの反射成分は減少しますが、負荷での反射成分は変化しない、あるいは増加していることさえあります。 こうなってくると、混乱してきて整合を取るのに時間がかかることがあります。スリースタブの後流にパワーメータを取り付ければ、スリースタブの反射の影響なしに負荷に供給される電力のみ見ることが出来ると考えるかもしれません。 しかし、スリースタブチューナはある面から考えると、負荷からの反射成分を再び負荷に追い返す反射点とも考えられます。したがって、この中で測定すると何十にも反射した電力を見ることになるので、見かけの電力が大きくなりパワーメータを壊す恐れが高くなります。
以上のことから、未知の負荷でアイソレータなしに整合をとる場合、基本的には下記のように操作すると整合がとりやすいです。

 未知の負荷でアイソレータなしに整合をとる場合のやりやすい方法 
  1. スリースタブチューナの棒を全て上げ、棒が導波管の中に出ていない状態からはじめます。すなわち、棒が挿入されていなければスリースタブチューナでの反射もほとんどないので、影響を無視できます。
  2. スリースタブを動かし、パワーメータの入射電力表示が増加すれば、反射波が増えていることになります。ですから、スリースタブチューナは入射電力最小、反射電力最小となるように動かします。動かしたとき、入射電力に変化がなく反射電力が低下する方向であれば、負荷に電力が消費されている可能性が高いです。
なお、アイソレータがない状態では気をつけなければならいことがあります。電力の往復により、パワーメータに定格以上の電力がかかり検知部を破壊したり、さらに極度に電力が高くなると、導波管内部でアーク放電を起こし、発振器やその他のコンポーネントを破壊する可能性も出てきます。 発振器が大きな反射電力を受けて、発熱したり、発振が不安定になったり、あるいは停止することもあります。

その他、スリースタブチューナの使用について注意すべきて点を述べておきます。

 スリースタブチューナの使用について注意点 
  1. 負荷からの反射が大きいと、スリースタブチューナで追い返す電力も大きくなりますので、スリースタブチューナが発熱します。 使用中に触れないほどに発熱するようであれば、別に反射用のインピーダンス素子を導波管内に設置するか、EH チューナの使用を検討すべきです。
  2. プラズマのようにある閾値を超えて放電が開始されるようなプロセスでは、放電が開始していない状態で反射がゼロになるようにチューニングしても意味がありません。 もしそういう調整をしてしまうと、プラズマ以外の部分で電力が消費されていることになり、部品の発熱、破壊といったことが起きる可能性も高くなります。深刻な事態になることがあるので注意すべき現象です。
  3. 負荷が最小だからといってそのときにプロセスが最良になるとは限りません。例えば、イオン源ではチューニングを少しずらすとイオンビーム電流が最大となる点が見つかることがあります。

アイソレータ

同軸ケーブル、方向性結合器及び、クリスタルマウント
図5:同軸ケーブル用アイソレータ(左)
方向性結合器及び、クリスタルマウント(右)

負荷から反射してきたマイクロ波が再びマグネトロンへ戻らないようにするものです。
サーキュレータとダミーロードから構成されます。
サーキュレータは負荷側から入ってきたマイクロ波をマグネトロン側へ戻さず、ダミーロードへ迂回させる役目をします。
ダミーロードはマイクロ波を吸収し、熱に変換します。
ダミーロードは、水冷式と空冷式があり、一般に電力が少ない場合は空冷式を使います。
マイクロ波出力が小さく、マグネトロンの出力に余裕がある場合、アイソレータを省くこともできます。しかし安定発振のためには、あった方が良いでしょう。ソリッドステート電源ではほぼ必須です。詳細はマイクロ波Q&Aをご覧下さい。

なお電子レンジにアイソレータは付いておりません。電子レンジに何も入れない状態で電源を入れると、発生したマイクロ波のほとんどが再びマグネトロンへ戻 り、マグネトロンが過熱します。電子レンジのマグネトロンは、通常負荷から100%反射波が返ってきたとしても、30分は耐えられるよう設計されているとのことです。

クリスタルマウント及びパワーメーター

出射、反射それぞれのマイクロ波電力を測定します。負荷に供給される電力は、出射電力から反射電力を引いたものになります。反射が大きい場合などは、指示値が不正確になる場合もあります。 マイクロ波検出器であるクリスタルマウントは、マイクロ波用ダイオードであり、電気的ショックに非常に弱いです。また、メーターを接続しないまま、マイクロ波を印加しますと破壊します。

EHチューナー

導波管のE面とH面にプランジャーを設け、これを出し入れすることによりチューニングをとります。
スリースタブチューナと比較するとマッチング範囲が広く、また2つを個別に追い込んでいけるので、操作が極めて簡単です。スリースタブよりも最大電力が大きいことも特長の一つです。欠点はスリースタブより価格が高いこと、大きいことなどです。

同軸ケーブル

同軸ケーブルは柔軟性があり小型にまとめられて便利なのですが、マイクロ波帯では損失が大きく過熱して損傷しないよう、使用に充分注意する必要があります。 なるべく太くて、損失の少ないものを使用すべきです。また多重反射が起きないようにして下さい。
図5はN型同軸コネクタで接続するタイプのアイソレータ(左)と、方向性結合器及びクリスタルマウントです。導波管に比べるとはるかにコンパクトになります。

プラズマへの電力供給

プラズマへの電力供給は、基本的にはアンテナによる給電、インピーダンスマッチングを行うことになります。しかしながら、プラズマ容器内にプラズマが発生している場合とない場合では、インピーダンスが大きく異なります。
また、無線などの解説書で説明されているアンテナはfar fieldを対象にしているのに対し、プラズマへの電力供給はnear fieldであり、放射パターンが異なります。
プラズマへ電力供給を行う方法は、主に以下の3つの方法があります。

  • 導波管内に石英などマイクロ波を透過する材料で作ったプラズマキャビティを置き、給電する。
    導波管内に、共振構造や電界を集中させるための突起を設置する場合もあります。
    大気圧プラズマ源 ATMP-1000、外付型プラズマ源などがこのタイプです。
  • 同軸管の中心導体を突き出させ、ここから放射されるマイクロ波でプラズマを励起する。
    この方式は、遮断波長に関係なくキャビティを小さくすることができますので、小さなイオン源に使用できます。
  • 導波管側面に長穴を開けてスロットアンテナとし、ここから放射されるマイクロ波でプラズマを励起する。
    この方式の大きなメリットは、大面積化が可能なことです。スロットアンテナは 1つの導波管に複数本設置することができます。
    また、表面波プラズマ源ではプラズマ源上面にスロットアンテナを配置しています。他に、ヘリカルコイルで給電することも可能です。

弊社ではプラズマへの電力供給にマイクロ波と高周波を利用しています。 それぞれ性質の違いについてはマイクロ波 (2.45GHz) vs RF (13.56MHz)をご覧下さい。